白と木材を基調とした空間に、コンロ部分に貼られた茶色のタイルがアクセントになっているおしゃれなキッチン。コンロ横には窓があり、キッチンに明るさを届けています。

「こんな素敵な空間で料理をしたら楽しいだろうな」と想像がふくらむキッチンは、デザインライター・角尾舞さんのおうちです。

“この家らしさ”にもなっているという茶色のタイルは、わざわざイタリアから取り寄せたもの。他にも、建築家とともにショールームに足を運んだり、サンプルで検討したりと、キッチンの素材はとにかくこだわって選んだといいます。
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でも、こうして自分でキッチンパーツや素材を自身で購入する施主支給は、検討する時間や取り寄せる手間がかかるため、簡単なプロセスではありません。また、建築家や施工会社によっては、受け入れていないこともあります。やってみたいけれど、難しそうで迷っている……なんて方も多いのではないでしょうか。

角尾さんのリノベーションには、そんな不安を払拭してくれる、こだわりのキッチンを作り上げるためのノウハウがたくさん詰まっています。「おしゃれなキッチンを目指したい」「施主支給に挑戦してみたい」そんな方は、参考にしてみてはいかがですか。

購入した一軒家は、トイレがたくさんある珍物件!?

角尾さんの家は、都内のとある一軒家。屋内のほとんどをリノベーションされ、居心地の良さそうな素敵な空間ですが、元々は普通の一軒家ではなく変わった物件だったのだとか。

「当初は一軒家を建てたくて、土地を探していました。そんななか、たまたま出会ったのがこの物件。元々住居用ではなかったため、独特な間取りで、キッチンも簡易的なものでした。住居とするためにリノベーションは必須だったこともあり、周辺の物件よりは多少お手頃な価格でした」

立地が気に入り、窓が大きくて室内が明るかったこと、そして価格面での折り合いがついたことで、購入を決定。リノベーションは、元々友人でもある建築設計事務所「Sawada Hashimura」に依頼しました。

「『Sawada Hashimura』は一般住居のリノベーション経験も豊富で、品のある住みやすい家を作ってくれそうだなと感じたのが依頼の決め手です。過去作品を見たら、夫も気に入ってくれました。同年代なので、意見を言いやすいことも大きかったです」

キッチンパーツは主に国内メーカーをチョイス

物件を購入後、2020年10月にリノベーションの打ち合わせがスタート。

キッチンは、最初から造作キッチンにするつもりだったそう。しかし、造作キッチンは自由度が高い分、自分で仕様を決めていくのが難しく、システムキッチンに変更する人も少なくありません。角尾さんはどうやってキッチン作りを進めていったのでしょうか。
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「事前に建築家さんにキッチンのイメージをPinterestで共有した上で、『コンロはガスで、魚焼きグリル付きがいい』といった細かい要望も伝えていました。それを元にキッチンパーツの候補リストを作ってくれたので、選ぶのはそこまで大変ではなかったですね」

悩んだ結果、コンロはパロマ、水栓はハンスグローエ、浄水器はTOTO、食洗機はリンナイ、レンジフードはパナソニックに決定しました。基本的に選ぶ基準は予算と使いやすさを重視し、水栓に関してはデザイン性で選んだそう。

「凝り性なのでリストにあった以外のメーカーや海外のものもかなり調べましたが、最終的にはほとんど国内メーカーにしました。ミーレやAEGなど海外メーカーへの憧れもありましたが、予算とサイズが大幅にオーバーしてしまうのが多くて。実際に使ってみると、日本の暮らしに最適化されているなと感じます」

コンロ部分のタイルは、なんとイタリアから取り寄せ!

キッチンは家全体の中でも優先度が高かったそうですが、中でも特にこだわったのが天板やキッチン側面の素材。ショールームに足を運び、建築家へサンプルの取り寄せなども依頼したのだといいます。

夫婦で検討した結果、天板はひんやりとした質感が心地よいCaesarstone(シーザーストーン)の人造石に、キッチン側面の木材はウォールナットを選びました。
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「天板は最近主流の人工大理石も検討しましたが、触った時の感覚が人造石の方が気持ちよくて。サンプルもあったCaesarstoneにしようと決めたあとは、実際にショールームに足を運んで、マットな質感の『FRESH CONCRETE MATT』を選びました。

側面は、予算の関係でラワンの塗装を予定していましたが、色味などが譲れなくてウォールナットに。その代わり、見えないところはラワンにするなど節約しています。こうした細かい調整は、施工を担当してもらった『青島商店エムプラス』の力添えもあってできました。また、施工会社の好意で、造作家具を製作した『COVAMOC』の工場へも見学に行きました」
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そして、角尾さんがもっとも気に入っているのがコンロ部分のタイル。「Sawada Hashimura」さんに、Dzekというブランドのシチリア島・エトナ山の火山灰から作られたタイルコレクション「ExCinere(エクスシネーレ)※」を提案され、即決したのだそう。

※ExCinere(エクスシネーレ):デザイナーと共同でオリジナルの建材と製品を手がけるロンドンの「Dzek」が、アムステルダムをベースにするプロダクトデザイン・スタジオ「Formafantasma」とのコラボレーションで開発したタイル。

「2019年にイタリア・ミラノで開催されたフォーリサローネに出展されていた作品で、私も現地で見て印象に残っていたんです。提案された時、『これがいい!』とすぐに思って。メールで問い合わせをして、イタリアからタイルを送ってもらいました。少し予算オーバーでしたが、家の特徴になってくれたので、とても気に入っています」

ちなみにこのタイル、2021年4月にオープンしたブルーボトルコーヒー渋谷店の店内にも使われています。角尾さんもそれを知ったときはびっくりしたのだとか。

全体予算の大きな部分をかけたキッチンは、妥協なし!

こうして、こだわり抜いたキッチンは予算の大きな部分をかけたといいます。リノベーション全体の費用も当初の予定よりオーバーしてしまいましたが、外壁のリノベーションや床暖房の設置を諦めたり、トイレは既存のものを残したりと、キッチン以外の部分を削って調整。最終的には500万円ほど削ったというから驚きです。
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リノベーションを始めてから約6ヶ月後、2021年4月に家が完成。住み始めた角尾さんに、キッチンの使い心地を聞いてみました。

「キッチンは前の家よりも広くなり、特に作業スペースを広くとったので二人でも料理がしやすいです。一つだけ後悔があるとすれば、私も夫も背が高い方なので、キッチンの高さをあげても良かったかも。前の家と同じ85センチにしたのですが、せっかく造作にしたのだからもう少し考えて決めてもよかったなと思っています」

とはいえ、キッチンはもちろん、リビングのカーテンや家具、照明器具など、細かいところまでこだわったからこそ、リノベーションにはとても満足しているのだとか。

「細部まで自分たちで選んだからこそ、愛着が湧きます。キッチンもリビングも夫婦と建築家さんとで何度も話し合って、ほとんど妥協をしなかったおかげで、どこに目をやっても『住んでいて嬉しいな、生活が楽しいな』と思えるんですよね」

雑誌で見るようなおしゃれなキッチンや、一からこだわって作る造作キッチンは「ちょっとハードルが高いかも」と感じるかもしれません。ですが、角尾さんのお話を聞いてみると、コンロのメーカーはどうしよう、天板の素材はどれにしよう……など、一つ一つ悩んで選んでいく過程はみんな同じなのだと気付かされます。

キッチンのパーツや素材の全てにこだわろうと思うと、何から手をつけていいのか誰しも迷うもの。だからこそ、まずは気になるパーツや素材を1つか2つ、徹底的に調べてみるのもいいかもしれません。

悩んだり、調べたり、時間をかけた分、きっと満足のいく自分だけのキッチンができるはずですよ。


credit
カバー写真:Kasumi Osada
記事内写真:Sohei Oya(Nacasa&Partners)

【角尾舞さんプロフィール】
「デザインを伝えること」を軸に、執筆や展覧会構成、PR企画などを行う。慶應義塾大学 環境情報学部卒業。メーカー勤務を経て、12年から16年までデザインエンジニアの山中俊治のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、17年10月に帰国。「日経デザイン」などでの執筆のほか、東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館、2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。

個人サイト:https://www.ocojo.jp
Twitter:https://twitter.com/ocojo?s=20
Instagram:https://www.instagram.com/ocojo/

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