明るく開放的なリビングに、木の温もりあふれるキッチン。窓の外に目を向けると、この家の最大の特徴であるL字型の縁側が見えます。

この家で暮らすのは、縁側愛好家の「縁側ちゃん」こと成瀬夏実さん。縁側に特化したメディア「縁側なび」を運営しています。

名前からも分かる通り、縁側のある家に住みたいという縁側ちゃんの夢が初めて叶ったのが、この一軒家です。キッチン、リビングには柱や壁が最低限しかなく、窓の外にある縁側も含めて、広々としたひとつの空間のよう。ここで家族や友だちとご飯を食べたら楽しいだろうな、と想像が膨らみます。

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しかし、この夢を叶えるための道のりはなかなかハードでした。家づくりにかけた時間は1年以上。なかでも毎日使うキッチンには、なんと4ヶ月ほど頭を悩ませました。

そして、2020年夏に家が完成。キッチンメーカーの選定や細かい仕様、金銭面などに悩んだそうですが、結果的にはほとんど妥協しなかったと言います。縁側ちゃんは、どんなところに重点を置いてキッチンづくりを進めたのでしょうか。

今回は縁側ちゃんに、キッチンが出来上がるまでの過程や悩んだポイントなどを聞いてみました。きっと、これから家を建てる人、キッチンをリノベーションする人の参考になる話がたくさんあるはずです。

縁側のある家に住みたい。悩んだ末に、新築を建てることに

縁側ちゃんは東京出身でマンション育ち。社会人1年目のころ、茨城県水戸市にある日本三名園のひとつ「偕楽園」を訪れました。園内にある建物の縁側に座ったとき、縁側の魅力に気づきます。

「当時は仕事で疲れていたこともあって、縁側に座って風を感じていたら、ものすごく癒やされたんです。そこから古民家や縁側の魅力に取り憑かれて、いつかは縁側のある家に住みたいと思い続けてきました」

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写真:古民家の縁側でくつろぐ縁側ちゃん

その後結婚し、2人の子供を出産。何度かの引っ越しを経て、ついに縁側のある家に住むという夢を叶えるときがやってきました。

「もともと古民家が好きだったので、リノベーションも考えました。理想は、L字型で光が入る、明るい廊下のような縁側がある家。でも、そんな理想に合致した物件はなかなかなくて。縁側が好きすぎてそれまでにたくさんの古民家を見てきたゆえに、理想ばかり高くなってしまったんです」

悩んだ末に、「だったら自分で建てたほうがいい」と新築を選びました。

一目惚れしたキッチンは予算オーバー。出した結論は?

L字型の縁側があること、リビングが1階であること、リビングが広く見えること、などの要望を設計士さんに伝え、間取りが決定。いざキッチンの打ち合わせに臨んだものの、ここから約4ヶ月にわたり、頭を悩ませる日々が始まります。

まず悩んだのは、キッチンメーカー選び。ハウスメーカーで取り扱いがあるのはLIXIL、パナソニック、TOTOの3社。ですがどれも理想と少し違ったそうで、他のメーカーもショールームにも足を運びます。そんななか、運命の出会いがありました。

「ウッドワンのキッチンを見たときに、これだ!と思って。ほぼ一目惚れでした。でも、ハウスメーカーが取り扱っているメーカーではないので割引が効かなくて、予算を50万円近くもオーバー。ハウスメーカー取り扱いの3社の中ではLIXILのデザインが比較的好きだったので、どちらにするか悩みました」

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さらに、悩みは金銭面だけにとどまりません。天板の素材をどうするかも悩みの種でした。

「ステンレスが良かったのですが、コンロ裏に耐震壁を設置している我が家では、それを叶えるのが難しかったんです。唯一、LIXILはステンレスでもいけそうだったのですが、天板にエンボス加工が施されていて、遠目だと濁ったように見えるのが好みじゃなくて。ウッドワンで人工大理石にするか、LIXILでエンボス加工のステンレスにするかも、悩みどころでした」

悩みに悩み抜いた結果、ハウスメーカーはウッドワンに決定。予算を50万円ほどオーバーしましたが、毎日使うキッチンに妥協はしたくないという思いが勝ったといいます。

天板の色やタイルの色は、最終ギリギリで変更

メーカーを決めた後は、細かい調整へ入ります。

縁側ちゃんが選んだのは、無垢の木材を使った温もりあふれる「スイージー」シリーズ。このシリーズには、ニュージーパイン、ウォールナット、オーク、メープルの4種類の樹種があります。迷った結果、明るくて柔らかさも感じる色合いのニュージーパインを選びました。

「我が家は天井や耐震壁の木材の色が少し暗めなので、ニュージーパインは明るすぎかな、と悩みました。3回くらいショールームに足を運んだのですが、自分の選択が合っているのかわからなくて、決めきれなかったんです。最終的には、すでに予算オーバーしていることもあり、シリーズの中で最も安価なニュージーパインに決定しました」

メーカー決めの際にも悩んだ天板は、人工大理石の黒を選択。さぞ吟味して選んだのかと思いきや、意外にも実物を見ないまま決めたのだとか。

「最初は白にしようと思っていたんですが、なんか違うなと思って。パンフレットを見ていたら『黒もいいかも』と思えてきたけれど、ショールームに行ったときは候補になかったのでほとんど見ていないし、もちろん写真も撮っていないんです。結局パンフレットの写真だけを頼りに決めましたが、黒で良かったと満足しています」

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また、キッチンの壁面はタイル貼りに。落ち着いたグレーのタイルがキッチンにおしゃれさをプラスしています。これはメーカーではなく設計士さんにお願いしたものの、タイル決めも直前に変更したのだそう。

「もともと、茶色にしようと思っていたんです。そんなとき、たまたま見ていたドラマで写ったキッチンの壁面タイルが、ちょうど選んだものと同じで。それを見てイメージと違うなと思い、設計士さんに『まだ変更できますか?』とすぐに連絡して。グレーに変更しました」

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サンプルのタイルを1枚見るのと、実際にキッチンに貼られた状態のタイルを見るのでは、全然イメージが違うもの。もしドラマを見ていなかったら、また違った雰囲気のキッチンになっていたかもしれませんね。

開放感あるフルフラットの天板に、ズボラでもきれいに保てる工夫も

そして2020年8月、待望の家がついに完成! 妥協せずにつくったキッチンなだけあって、満足できる仕上がりになりました。

なかでも縁側ちゃん夫婦がこだわったのは、開放感のあるフルフラットの天板です。これは「普段から料理をする夫が希望したんです」とのこと。

シンクの前に立ち上がり壁がないので、リビングにいる人との心理的距離が近く感じるといいます。天板の幅をリビングに向けて少し伸ばしているので、将来的にはカウンターキッチンとして使うことも考えているそうです。

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この天板、実際に使ってみると、予想していなかったメリットもありました。

「シンクに立ち上がり壁がなく、リビングから丸見えなので、常にきれいにするようになりました。最初は壁がないとごちゃごちゃのキッチンが見えそうで不安でしたが、むしろ壁がないことでキッチンが部屋の一部のように感じるようになって、掃除への意識が変わったんです。今では夜寝る前にきれいにしないと落ち着かないくらい。

あとは、天板に食事を置いておくと、子どもがお皿を机に運んでくれるようになって。それも嬉しい変化ですね」

また、片付けや掃除の手間が少なくなるような設計にもこだわりが。例えば、食器は食洗機のすぐ後ろの引き出しに収納することで、最低限の動作で片付けが終わります。ゴミ箱はシンクの下に設置し、料理中でもすぐにゴミを捨てられるようにしました。また、コンロは掃除が簡単なラジエントヒーターを採用しています。

「ズボラな私でも、家をきれいに保てるように工夫しました。あとは4人家族なので荷物は多いですが、収納を増やすのではなく、整理収納アドバイザーの方に定期的に家に来てもらっています。自分が苦手なことは、設計の工夫やプロに頼むことで解決していますね」

縁側は家と外の中間の、多目的な空間に

ずっと夢だった縁側は、キッチンに立つとちょうど窓の外に見える位置にあります。今では縁側が、子どもたちの遊び場所や、縁側ちゃんの仕事の休憩場所として、大活躍しているのだとか。

「キッチンで料理しているときも縁側が見えるので、外で遊んでいる子供たちに目が届いて安心です。また、私や子どもたちが縁側にいるときに、目が合ったご近所さんと自然に挨拶するので、地域の人たちとの関わりが増えました。家と外の中間という感じで、多目的な空間になっていますね」
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最後に、キッチンを含め妥協した点を聞いてみると「ほとんどない」とのこと。その代わりに意識したのは、「資産にできること」なのだそう。例えば、本当はリビングのほうに伸ばしたカウンターの下に本棚を作りたかったのですが、あまり手を加えすぎると建物としての資産的な価値が落ちてしまうため、設置は見送りました。

「予算がかなりオーバーしてしまったので、将来的に売れるように考えてつくりました。いつかは、古民家のリノベーションにも挑戦したいなと思っています。あと、子どもが巣立った後にもし都内に引っ越すとなったら、マンションのリノベーションもやってみたいかも」

理想の家づくりに全力を注ぎながらも、将来も見据える。そのバランス感覚と、やってみたいことが尽きない家への興味に、縁側ちゃんらしさを感じました。

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家族揃って団らんの時間を過ごしたり、友達を招いておしゃべりしたり。縁側でのお話を聞けば聞くほど、楽しそうな光景が浮かんでくるようでした。そんな空間が実現したのは、キッチン・リビング・縁側がひとつの空間のようになっていることも背景にあるのでしょう。

縁側と、縁側に接したリビングやキッチンが家族にとって安らげる場所になるように。縁側ちゃんがその思いを大切にしてきたからこそ、どんなに悩んでも最終的には満足のいく決断ができたのかもしれません。

家を建てたり、リノベーションをしたりすることは決断の連続。きっと、決断することに疲れてもう考えたくなくなることもあるでしょう。そんなときこそ初心に立ち返って、「こんな家にしたい」「あんなキッチンにしたい」という家づくりの原点と向き合ってみてはいかがでしょうか。そこには、あなただけの心躍る家づくりのヒントが眠っているかもしれません。

プロフィール:成瀬夏実さん【縁側愛好家】
日本家屋の縁側のある家を紹介する「縁側なび」の運営。そのほか、フリーランスとして広報やライティングの仕事も請け負う。現在は、夫と子供2人の4人家族で、鎌倉在住。

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