![目次]()

料理したいな! と気分が乗ったときだけでなく、仕事で疲れて帰ってきたときにも楽しくキッチンに立てたらいいな、と思うことはありませんか。

キッチンにいると家族と話しにくいから、奥まったキッチンでひとりで献立を考えて、食べ終わった後の片付けはまたひとり……。元気じゃないときにキッチンと向き合う場面を想像すると、なかなか楽しいイメージが浮かびにくいかもしれません。

キッチンに立つ人が「孤独」になってしまう原因のひとつは、キッチンがひとりで使うように設計されていること。

でも家族のあり方やライフスタイルが変化しているなら、キッチンの形も今の暮らしに合わせることはできないかな。たとえばキッチンを飛び出してみたら、家族と会話を弾ませながら一緒に料理できるのでは……?

そう考えて自宅でのキッチンリノベーションを“実験台”にしたところ、その新しいキッチンのかたちが話題になった方がいます。

![](https://img.cpcdn.com/funkitchen-mag-attachment_image-image/151/3000x1500s/1f62c464bc21cc95cd7c9e318de6cffa.jpg)

彼女は、スープ作家の有賀薫(ありが かおる)さん。忙しい日々でも身体にやさしい食事を取り入れられる「スープ」の簡単レシピを数多く提案している、人気の料理家さんです。

そんな有賀さんが、スープを作ったり家族と食卓を囲んだりする時間をもっと大切にするために、キッチンのリノベーションを試みたのは2019年のこと。

「キャンプに行くと、普段キッチンに立ちたがらない人でも率先して料理をしたがることに気づいたんです。それなら家でもキャンプのように、食事の準備から片付けまでみんなで一緒にできる『新しいごはん装置』を作ってみたいと思いました」

そうして有賀さんが考えたのが、キッチンとダイニングを融合させた「ミングル」です。ミングル誕生の経緯を書いた記事「新時代のごはん装置「ミングル」を自宅に作ってみた話」は話題になり、「ミングルを自宅に取り入れたい!」と望む声もたくさん出ています。
![](https://img.cpcdn.com/funkitchen-mag-attachment_image-image/152/3000x1500s/a1aa785f4b54160ada91cdb46d57ad11.jpg)
家のかたちに暮らしを合わせるのではなく、暮らしに合わせた家を実現する──有賀さんの実験的なリノベーションは、キッチンとの新しい付き合い方を考えるヒントを与えてくれています。

リノベーションなら理想のキッチンが叶えられる

有賀さんの職業は「スープ作家」です。スープ作家になったきっかけは、忙しい毎日でも家族と一緒に食卓を囲むために、シンプルで身体にやさしいスープを毎朝作り始めたことでした。

簡単に作れて洗い物も少なく、「作る」「食べる」の両方が楽になるベーシックなスープのレシピをインターネットで公開したところ、充実した食事をとれなくて悩んでいた人に大好評。季節や素材に合わせたバリエーション豊富なレシピは、Webメディアや『スープ・レッスン』をはじめとする著書でますます広がっています。
![](https://img.cpcdn.com/funkitchen-mag-attachment_image-image/153/3000x1500s/4b30f6b5581e6ccafdba6b4f2796911d.jpg)
(写真:リノベ前のリビング)

そんな有賀さんの仕事場は、夫婦ふたりで暮らす築20年ほどの自宅マンションです。リノベーション前のキッチンは家の奥にあり、光が入りにくくて撮影に向かないだけでなく、閉鎖的な雰囲気も感じていました。このため自宅とは別に、仕事場にできるキッチン付きの物件を探していたものの、理想のキッチンに出合えなかったのだとか。

「わたしの作るスープはひとつのコンロで調理が完結するし、食卓にスープとパンがあれば十分に満足できるもの。そんなコンパクトで健康的な暮らしを、スープと一緒にみなさんに提案できるようなキッチンを探していたんですが、見つからなかったんです」

有賀さんがイメージしていたキッチンは、家の奥まったところに隠れているのではなく、リビングに飛び出しているタイプのもの。アイランドキッチンよりもコンパクトで、調理はもちろん、食事も片付けも済ませられるものを考えていました。そんなキッチンなら、家族のなかで家事をシェアしやすくなり、ひとりあたりの負担を減らせるからです。

「理想のキッチンやリビングについて、夫によく相談していたんです。思い描いているキッチンが見つからないけれど、今の家でアイランドキッチンを実現するのはスペースの関係で難しい。そしたら夫が『この家をリノベーションしたら』と提案してくれたんです」
![](https://img.cpcdn.com/funkitchen-mag-attachment_image-image/154/3000x1500s/c3cf61b6cb1474ee706a6fcf941d1774.jpg)
(写真:リノベ前の間取り図)

リノベーション前のリビングは、10.5畳ほど。キッチンの機能をリビングに持ってくるとリビングが狭くなってしまうことも、懸念点でした。

「それなら、リビングの横にある6畳の和室までリビングを広げて、18畳のリビングダイニングにしたらどうか、と夫が提案してくれたんです。そのとき初めて、『理想のキッチンを実現できるかもしれない』と思えて。リノベーションの現実味が増していきました」

スープのある暮らしを「体験」で共有する

こうしてリノベーションを決心したものの、これまで考えたことがなかった有賀さんは、まず何をすればいいのかわからなかったそうです。

「何から始めたらいいのかわからなかったので、東京ガスが運営する『リビングデザインセンターOZONE』に足を運んでみました。まずは気軽な気持ちでショールームを見てみようと、情報収集しに行ったんです」

相談者からリノベーションでやりたいことを聞き、ぴったりの業者を数社紹介してくれるOZONE。有賀さん夫婦は無料相談のコーナーで、これから実現したい暮らしを熱く語りました。そこでリフォーム会社と設計事務所の2社を紹介してもらい、見積もりを取ることに。

見積もりにあたり、有賀さんは実現したいキッチンのアイデアを具体的に提示できるように、メモを作成しました。とはいえアイデアが完全に固まっていたわけではないので、「思い描いている暮らしのイメージがスムーズに合致すること」を決め手にすり合わせを進めていきます。

このすり合わせのために有賀さんが選んだ方法が、なんとワークショップ。言葉や図だけでは伝わりきらない大きさの感覚を共有するために、テーブルにテープを貼って必要な大きさを確かめたり、ボール紙で作ったシンクを並べたりと、試行錯誤を重ねました。

![](https://img.cpcdn.com/funkitchen-mag-attachment_image-image/155/3000x1500s/99e4a477f88c6d32ad6abbf74de044d4.jpg)

さらに有賀さんは、設計士さんに「スープのある暮らし」を実際に体験してもらうことも。

「私がスープを作り、設計士さんと一緒に食卓を囲みました。テーブルの上に鍋を置いて、全員のスープボウルとパンの小皿を並べて。スープを食べながら、『こういう食事なら、小さなテーブルでも3人でゆとりを持てるね』と話したんです」

有賀さんにとって設計士さんは、新しいキッチンのかたちを一緒に生み出していく伴走者。そのために「スープのある暮らし」を体感してもらった上で、有賀さんの頭のなかにある新しいキッチンのあり方を共有しやすい方法を考えたのです。

理想の追求をあきらめず、会話を重ねた8ヶ月間

打ち合わせを重ねるなかで、有賀さんは設計士さんにあるリクエストを出しました。

「リビングでもキッチンでもない、新しい『ごはん装置』を作っていると思うんです。だから試しに、その装置の名前を考えてみませんか」。そのとき設計事務所の担当者が提案したのが「ミングル」でした。

「響きがかわいいなと思いましたし、夫が特に「ミングル」という名前にいい反応をしていたんです。表記を『みんグル』と変えれば、みんなでグルグルする、というイメージも湧くんじゃないかと。わたしもぴったりの名前だと思いました」

この名前の提案が最後の決め手となり、3ヶ月以上打ち合わせを重ねてきた2社の設計事務所から1社を決定しました。

![](https://img.cpcdn.com/funkitchen-mag-attachment_image-image/156/3000x1500s/8f698aca4325637ab29081e8d5b84789.jpg)
(写真:動線がぐるぐるしている設計図)

ミングルの名前が出た後は、形が決まるまで試行錯誤。近未来アートのようなテーブル案や導線を強く意識した円卓に近い案などを経て、シンプルでスタンダードな形へと着地していきます。

「奇をてらったものではなく、一般的なテーブルに近いものにしたいと思ったんです。機能もできるだけシンプルに、食器洗浄機とIHコンロ、箸や調味料が入る引き出し、シンク、換気扇の代わりに空気清浄機を兼ね備えたものになりました」

![](https://img.cpcdn.com/funkitchen-mag-attachment_image-image/157/3000x1500s/bef4df8c5b79999515ee800231f692af.jpg)
(写真:完成予定図のミングル)

打ち合わせを重ねた結果、設計が決まるまでに8ヶ月が経過し、設備の金額は90万円ほどに。それでも有賀さんは設計士さんとイメージを共有するために、話し合いを重ねることを大切にしたのです。

家族みんなでつくり、家族みんなで使うミングル

![](https://img.cpcdn.com/funkitchen-mag-attachment_image-image/158/3000x1500s/3e46aee90f189a6e1abe13a7c3bab3a2.jpg)

最初の相談から1年ほど経って、ついにミングルが完成!有賀さんは完成したミングルにとても満足しているそうです。本人だけでなく、ご家族の行動にも変化がありました。

「食事を始めてから調味料を取りに立ったり、食べ終わったら食器をキッチンに運んだりと、これまで必須だった面倒な動作がぐっと減りました。夫は席の横がシンクなので食べ終わったらそのまま食器をシンクへ置けますし、わたしは冷蔵庫が近いので座ったまま食材を取り出すこともできます」

家族みんなでミングルを活用できている秘訣は、ミングルを完成させる過程にヒントがありました。

「夫もミングルに愛着があるんだと思います。形にするまでのアイデアは、ほぼ夫が出してくれたようなものです。例えば、ミングルの奥にある棚は見せる収納にしたほうが撮影に使えそうだと提案してくれたり、平面図が苦手なわたしに設計のための模型を作ってくれたりしました」
![](https://img.cpcdn.com/funkitchen-mag-attachment_image-image/159/3000x1500s/4bc89e6d8ddfc358feda82f9eef8751e.jpg)
キッチンのリノベーションは、ついキッチンに頻繁に立つ人だけで考えがち。でもキッチンを飛び出したミングルの理想型を家族みんなで考えれば、キャンプのときのようにみんなで準備から片付けまで楽しめそうな予感がします。

シンプルなミングルが教えてくれた、食卓で大切にしたいもの

有賀さんのミングルは、あくまで有賀さんの暮らしを考える実験。ミングルについて発信することで、「キッチンとの付き合い方に悩む人にとって、自分に合ったキッチンのスタイルを追求するヒントになったら」と考えています。

「ミングルをそのまま取り入れてくださるのも大歓迎なのですが、必ずしもこの形ではなくていいと考えています。というのも、ミングルは『今の暮らしに合わせて、食べ方のスタイルを変えてみませんか』と問いかけるメッセージのようなもの。自分や家族にフィットするキッチンを自由に実現できるんだ、と思うヒントになったら嬉しいですね」

![](https://img.cpcdn.com/funkitchen-mag-attachment_image-image/160/3000x1500s/59e711a9229c1a533c52d85326b12095.jpg)

自分に合うキッチンを考えることは、自分が理想としている暮らしのあり方ともう一度向き合うこと。有賀さんは理想のキッチンを追い求めたことで、大切にしたいと思っていた食卓の役割をあらためて発見できたそうです。

「ミングルをどんどんシンプルにしていった結果、食卓の重要な役割は、コミュニケーションが生まれて心休まる場所であることだと気づけたんです。実際にミングルを見た友人には、『囲炉裏みたい』と言われます。熱源であるIHコンロが真ん中にある意味を感じましたね」

有賀さんのミングルは、リノベーションによって暮らしを便利で快適にできるだけでなく、暮らしのなかで本当に大切にしたいものを見つめ直す機会にできるんだ、と教えてくれています。

もし、長く暮らしていくにはしっくりこない要素が今の家にあるのなら。まずは「何を大切にする暮らしをしたいのか」という問いと向き合ってみませんか。

大切なものを選び取って、合わないものは手放して。リノベーションはきっと、ありたい自分にフィットする暮らしの味方になってくれるはずです。

有賀薫
【スープ作家】

約9年、3000日以上にわたり、毎日スープを作り続けている。おいしさに最短距離で届くシンプルレシピや、家庭料理の考え方などを発信中。
著書に『スープ・レッスン』(プレジデント社)、『朝10分でできる スープ弁当』(マガジンハウス・第7回レシピ本大賞入賞)。最新刊『なんにも考えたくない日は スープかけごはんで、いんじゃない?』(ライツ社)

Instagram:arigakaoru
Twitter:kaorun6
note:kaorun
Youtube:有賀薫