「料理をすることで、私の人生は豊かになってきました。だから、レシピそのものだけでなく、料理を通して得られるものを伝えていきたいと思っています」

つい数年前までは料理教室をメインに活動しており、肩書が「料理教室の先生」だった今井真実さん。今でこそ多くのメディアでインタビューやレシピを目にしますが、料理教室以外の活動を本格化させたのは、意外にも昨年の3月から。

それまで裏方に徹していたレシピ考案やスタイリングなどのクライアントワークで、料理家として名前を出すようになったのもこの頃です。
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写真:キリンビールのインスタグラムでのレシピ紹介

変化のきっかけは、自宅に生徒を招き入れていた料理教室が、コロナ禍でできなくなってしまったこと。ほかの一手を模索し、活動の舞台をオンラインに移しました。

在宅勤務になったカメラマンの夫が、料理の撮影をしてくれたことも後押しとなり、noteTwitterで日々の暮らしや献立を綴り始めたところ、あっという間に評判に。
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料理教室もオンラインレッスンに切り替え、毎月開催。現在noteには200本近い記事が公開されており、Twitterのフォロワー数は1.9万人に上ります。
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「自分が表に出るのがイメージできず、料理家と名乗るタイミングもわからなかったんです。コロナ禍にならなければ、ずっと料理教室だけを続けていたと思います」
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料理家としての活動を始めてわずか2年のうちに熱い支持を集めた理由は、どこにあるのでしょうか?

料理教室で生徒ひとりひとりと向き合ってきた経験を活かしながら独自の道を行く今井さんの、料理との向き合い方、そして、数々の「新しい家庭料理」が生まれるキッチンについて紐解いていきます。

料理教室がすべての原点。知らない誰かではなく、隣の“あなた”に寄り添うレシピ

両親が自営業で忙しかった影響で、料理を始めたのは幼稚園時代に遡ります。小学校低学年の頃には、自分のごはんは一人で作れるまでに上達。

放課後は同じ敷地内に住む親戚の家で、従兄弟も交えて夕食を作るのが日課でした。親戚の家にあるオレンジページを読んで、美味しそうなメニューをみんなで作ってみる。そんな幼少期だったといいます。
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写真:今井さんのTwitterより

「わたしは”料理が好き”の前に、まず食べることが好き。自分の食べたいものを作れるのは、選択の自由があって、とてもいいことだと思うんです。例えば一人暮らしでお金がなくとも、料理ができれば、節約とおいしいごはんを両立できます。心を豊かにしてくれる料理は、何にも変え難い生活スキル。手に入れて損はないし、その手がかりをうまく伝えていきたいと思っています」

ご自身も、料理ができることで人生が豊かになってきたと語る今井さん。ただ、料理を職業にしようとは考えませんでした。

「料理に関する仕事=料理人のイメージでした。外食が好きで身近に飲食業の方も多かったので、経営面の厳しさを知っていましたし、修行しなければならない点も、自分には向いていないと思っていました」

大学卒業後は、専攻していた映像の知識を活かし、テレビ局に就職し、ディレクターを担当します。しかし、体力仕事な上、不規則な生活を送ることが多く、体調を崩してしまいます。

「テレビ局をやめて、少しだけ休むつもりで東京に遊びに行ったのですが、知り合いが多いこともあり、思いがけずそのまま定住することになってしまいました。そのうちに料理教室を始めて、カメラマンの夫がフードの撮影をするときなど、簡単なスタイリングを手伝っていました。知り合いに頼まれてレシピ提供することもありましたが、無記名で、あくまで料理教室の延長のつもりでした」

料理教室の先生として、生徒さんに向き合う日々。そんな最中、コロナ禍で料理教室ができなくなってしまいます。
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「あの頃は、先が見えない閉塞的な空気が漂っていましたよね。急に家で三食とらざるをえない状況になり、困っているという声をたくさん耳にしました。『なにか自分にできることを』と強く感じ、noteにレシピを掲載し始めたんです。ただ料理教室では、生徒さんそれぞれに合わせたレシピを考えていたので、いざ見えない誰かにレシピを作ろうとしたときにはイメージが湧かなくて」

料理教室では、お酒が好きなグループならお酒に合うメニュー、赤ちゃん連れのグループなら一緒に食べやすいメニューなど、グループごとに話を聞き、レシピを提案していました。ならばnoteでも、見えない誰か、ではなく、悩みを持つ架空の誰かに料理教室をやるつもりで書いてみようと考えたのだそうです。
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写真:今井さんのTwitterより

「自炊が辛い、買い物に自由に行けない、自分の味に飽きた、料理が苦手、簡単にできるものがいい。自分の周りやSNSのフォロワーさんたちが発している悩みをヒントに、レシピを提案する相手を設定しました」

自分の名前でレシピを公開することは、お金を払って通ってくれていた料理教室の生徒さんたちとって好ましくないのではと迷いましたが、みなさん「自分も見たいのでぜひ出してほしい」と賛成してくれたといいます。
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夫が撮影してくれた写真とともに、隣にいる相手に語りかけるようにnoteで文章を綴り始めた今井さん。毎日を生きるヒントになればと、今井家の献立や生活の記録など、レシピ以外の内容も公開していきます。
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「生徒さんの話をよくよく聞くと、料理だけではない、複合的な悩みを抱えている場合が多いんです。『ワンオペ育児で疲れているから、料理もしんどい』など。だから、料理を通じて、困りごとの根本を見つけたいと思っています」
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「お料理以外のおしゃべりもできて、愚痴も言えて、ゆっくりできる場でありたいですね。言いにくい話題も、作業をしながらだと不思議と話せるんですよ。子どもが生まれて、大好きだった料理の時間が取れない生徒さんが来たときには、わたしが赤ちゃんを抱っこして、心ゆくまでお料理を楽しんでもらうこともありました」

活動の場所がオンラインになっても変わることのない、目の前の悩みに寄り添う優しさが、今井さんが支持される理由なのでしょう。

都会の中に見つけた築30年の一軒家。かっこいいキッチンよりも一息つける場所でありたい 

自宅は、築30年以上の賃貸の一軒家。梅仕事ができる庭と、撮影がしやすい日当たりが良い家を条件に物件を探し、子どもの小学校入学に合わせて7年前に引っ越してきました。

「教室を兼ねるキッチンは4畳で、賃貸にしては広いのですが、引っ越し当初はかなり劣化していました。結局、古すぎて部品交換ができず、大家さんがキッチンを全面リフォームしてくれることになり。要望を全て反映できたわけではないですが、最新の設備に生まれ変わり、教室はやりやすくなりました」

リフォーム前後で共通するこだわりは、壁面に沿って設置される「壁付けキッチン」であること。カウンターキッチンと違い通路の幅を確保する必要がなく、4〜5人集まっても広々と使えます。すぐ側には別途テーブルを用意し、仕込みなどの作業はそちらで行います。
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キッチン壁面はホワイトボードとして書き込みができる素材になっており、思いがけず重宝しているんだとか。
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「機能的で、凹凸が無く掃除がしやすい点が気に入っています。使い勝手がすごく良いです。食洗機も付けたので、生徒さんたちが喜んでいました」

広さ、配置、設備など、生徒起点で考えるのは料理教室の先生ならではかもしれません。その姿勢は収納面でも同じ。人の出入りが多いからこそ常に片付いている状態を保つべく、調理器具を吊るすといった「見せる収納」はせず、「隠す収納」が基本です。
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「ツールをコンロの壁面にぶら下げると、油やホコリをかぶりやすくなります。わたしも夫もこまめに掃除できる性格でないので、表に出さないと決めました。毎日使うもの限られたものだけ、コンロから離れた場所に置いています。物が出ていない方が、家族も生徒さんも料理しやすいと思いますしね」
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キッチンツールや鍋、食器などを選ぶ際に心がけているのは、値段で決めないこと。気に入った道具は料理のモチベーションを上げてくれ、使う幸せをくれるといいます。
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「予算の範囲内であれば、値段で選ばず気に入った方を選びましょう。キッチンツールってそう頻繁に買い替えないですから。ちょっとした妥協で後悔しながら使い続けるより、毎日使いたくなるアイテムが良いと思います」

アウトドア料理も普段の料理も無理はしない。お皿に並べるだけで、立派な自炊

キャンプが大好きな今井さんが野外の料理で心がけているのは、家よりも手間をかけないこと。理由は、料理以外の楽しみの時間を確保するためと、衛生面の2つです。

「キャンプでは、テントを立てたり何かと時間がかかるので、料理の時間はなるべく短くしたい。また、野外の料理環境は家よりも確実に衛生面に不安があるので、その意味でも簡単なメニューにしています。極力素材をそのまま使うとか、手の込んだものを作りたければ、下ごしらえは家で済ませます。いつものごはんも、外で食べるだけで格段においしいですから」
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先日家族から好評だったのは「お茶漬けパーティー」。近くの道の駅で買った漬物や薬味を各自自由に選ぶ楽しさと、炭火焼きの鮭でキャンプならではの特別感を演出できました。

「キャンプだけでなく、普段の料理だって無理しなくていいと思いますよ。わたしは塊肉が好きで、鶏むね肉をそのまま焼いたり、オーブンでベーコンを作るのを推奨しています。インスタントラーメンやコンビニ飯の日でも、作り置きした塊肉をスライスして添えれば立派な自炊です」

満足度を高めるには、レシピ以上に提供の仕方も重要なんだとか。安いお刺身ならたっぷりのオリーブオイルと薬味をかけてカルパッチョにしたり、インスタントラーメンを家族全員分土鍋で作ってどーんと提供したり、いつものパスタをショートペンネに変えてみたり。見せ方で他人も自分もごまかせるという、今井さん流の裏技を最後に教えてくれました。

悩みに寄り添うレシピや毎日の暮らしを綴るnote。いつもの献立に新鮮さを取り戻してくれる見せ方や調理法の工夫。今井さんが生み出す、レシピの周辺まで含めた「新しい家庭料理」の提案が、これからも楽しみです。

献立と同じで、無理せずたのしく使い続けられることが、キッチンづくりの大切な要素かもしれません。

【今井真実さんプロフィール】
〈毎日のご飯作りの助けになりたい、作った人が嬉しくなる「新しい家庭料理」を。〉をモットーに活動する料理家。東京都世田谷区で料理教室「nanamidori」を主宰(現在は休止中)。企業案件や雑誌、WEBメディアなどで幅広くレシピ提供や執筆を行う。趣味はキャンプ。お味噌、梅、塊肉がライフワーク。フォロワー数はTwitter 1.9万人、note 約8,500人。
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