「リノベーションはずっと前から考えていたわけではないんです。在宅勤務へのシフトもひとつのきっかけですし、ライフステージを考えたときに、自由にできるのは今かなと思いました」

美術大学の学生時代から、お菓子作りとフードスタイリングをテーマとしたSNSでの発信を行ってきたAi Horikawaさん。高いクオリティと独自のセンスが光る投稿が話題となり、今ではTwitterは5.6万人、Instagramは4.2万人にフォローされています。セミナーやトークイベントに登壇すると毎回満席になる、人気のフードデザイナーです。
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このSNSでの活躍がきっかけで声をかけられ、「Tastemade Japan」に新卒入社。クリエイティブディレクターとして活躍されました。会社員と並行しながら、個人としても活動を続け、現在はフードデザイナーとして独立されています。

仕事も個人の活動もしやすいようにと作ったのが、こだわりのキッチンを備えたスタジオのようなおうちでした。

「在宅勤務が増えたことで、すべての活動拠点が自宅中心となりました。そうすると部屋もキッチンも手狭に感じるようになり、引っ越しを考えるようになったんです」

食に携わる仕事をしていく上で広いキッチンを持ちたい思いもあり、中古マンションを購入して自分好みにリノベーションすることに。
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賃貸だと100%出費になってしまうのに対し、購入はしっかりと割安な物件を選べば資産になります。周囲の同年代に不動産を所有している友人が多かったのも後押しして、フルリノベーションができる中古物件を探し始めたといいます。

30軒近く内見して見えてきた、わたしが惹かれるおうちの条件

20代の今だからこそ、リノベーションを決断したというAiさん。

「早いうちに資産形成をするということも理由の一つですが、この先結婚や子供ができて家族を持つかもしれないと考えたときに、本当に自分と自分の仕事のためだけの家を作れるのは今だと思ったんです。今回は終の棲家というわけではなく、ライフステージが変われば住み替えたり、レンタルキッチンのような使い方も考えています」

再販価値が高まる立地の良さと、フルリノベーションできる点を両方叶える物件になかなか出会えず、内見した物件数は30軒ほどにのぼります。仕事柄、撮影のために陽の入り方を確認する必要があり、日中をメインに訪問するなど制限も多く、今の物件に出会う頃には、最初の内見から半年が経っていました。
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「新築という選択肢はわたしの中には無くて、フルリノベできる点にこだわって探し続けました。最近増えているリフォーム済みの物件は、理想通りではない点が多いケースがほとんどで、フルリノベOKの物件を探すだけでも大変でした。もう無理だと諦めかけたときに、経年劣化でボロボロだった築40年の今の自宅に出会い、同じ週に3回見に行って決めました」

都心で駅からも近く、新築では購入できないような立地であることに加え、念願のフルリノベが可能。内見を数多く重ねてきただけあって、直感的に「ここだ」と感じることができたといいます。

「内見は時間がかかりましたが、楽しかったです。行けば行くほど、自分の好みや妥協できない項目の精度が上がっていくんです。好みのテクスチャーの洗面ボウルに出会うとか、この色合い好きだなとか、そういうひとつひとつの発見が楽しくて。エリアも、最初はどこでも良かったのですが、色々と巡るうちにどこが居心地が良いのかわかってきました」

ローン審査は思ったよりも時間がかかりましたが、着工してからは異例の速さで工事が完了。28歳の誕生日までに引っ越しする願いを叶えるべく、施工期間一ヶ月半の驚異のスピード仕上げをしてくれたのは、特注家具や、店舗の施工を得意とする会社「SET UP」さんでした。

プロが手掛けた、真っ白で美しい空間

「パーツごとにはやりたいことがあったのですが、家全体ではなかなかイメージが湧きませんでした。あとは、わたしの好みをよく知ってくれているインテリアデザイナーの友人が代表を務めるデザイン会社『Hybe Design Team』に「全体的に白ベースでシンプルなデザイン」ということだけお伝えしました。そのあと、コンセプト作りからお願いしました。

Aiさんのおうちで特徴的なのが、天井から少しだけ低い位置で揃えられた、玄関からぐるっと部屋を囲む壁。普通なら部屋を仕切る壁は天井までありますし、色を塗る場合も天井まで全て塗ることが多いですが、この少し低い位置で全てのラインが揃えられていることにより、部屋の中にさらに部屋があるような印象を与えます。
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店舗デザインを専門とするデザイナーさんだけあり、できあがった空間は自宅というよりまるでキッチンスタジオのよう。

「部屋の中にお皿があるようなイメージで、『そのお皿の中で私が自由に料理(デザイン)していってね』とコンセプトを説明してくださって。すごく素敵だなと思いました」

好みのテイストやフードデザイナーという職業を理解した上で設計してもらえたため、最初に見たデザイン案からほとんど大きな変更はなく、細かい部分をブラッシュアップする方向でスムーズに工事を進めることができました。

初期の頃にアーチ型の扉を付けたいと思っていたのですが、間取りや全体のデザイン、費用面などを考えたときに付けない方が良さそうということになりました。代わりに部屋の隅にRを付ける(角を取って丸く加工する)ことで部屋を実際よりも広く見せることを提案してくれるなど、常に期待以上の提案をしてくれたといいます。
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「自分のことをある程度知っている間柄だったので『玄関に入っていきなりキッチンが広がる方が藍ちゃんっぽい』など色々とおもしろい提案をしてもらえました。リノベーション中もセンスの良さに感動していましたが、住んでみて改めて、美しい空間だなと実感しています」

例えば家中の戸棚は、すべて取っ手がなく押すと開くタイプ。壁がそのまま開くかのようなデザインで「ここが収納棚」と主張してくることがありません。
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トイレは、ドアを開けた時に入り口からは便器が見えないようにデザイナーさんが設計してくれました。そうすることでより広く感じ、お店感が出るのと、心理的安心感も感じられるそうです。トイレットペーパーホルダーも壁から出っ張らないよう、彫り込んだ空間の中に取り付ける徹底ぶり。
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窓はマンションの共用部なので、リノベーションでも交換することができないケースがほとんど。Aiさんのおうちも古いサッシが見えているのが気になっていましたが、ここは壁を窓の一回り内側に作ることで、サッシが隠れる工夫をしています。
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細部まで妥協したくない気持ちに応えてくれたデザイナーさんのおかげで、日々部屋を見るたびに美しいと感じられるのが嬉しいのだそうです。

玄関を開けて広がるのは“1人4役”のリビングキッチン

玄関から最初に現れるのは、おうち全体の3分の2を占めるキッチン空間。デザイナーさん曰く「Aiさんを象徴する間取り」です。
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部屋の広さも、そこに配置されるカウンターキッチンも、おうち全体の広さから見ると普通はあり得ない間取りですが、キッチンだけでなくリビング、ダイニング、書斎をすべて兼ねた空間と聞くと納得がいきます。キッチン=仕事場であるフードスタイリストならではの思い切った間取りです。
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キッチンカウンター横にも、撮影に使う広いスペースを設けました。今までは自然光をメインに撮影していましたが、今後は天気や時間関係なく撮影ができるようライティングに力を入れる予定。そのため、照明機材を置いて撮影ができるだけの広さを確保しました。

「これでも最初の案よりはキッチンは小さくしたんです。家の平米数に対して空気の読めていない大きさが、自分らしくて気に入っています。カウンターの下にコンセントの差し込み口があったり、座ったときに足を置くための段差があったり、キッチンだけでなくワークスペースとしての使い勝手も考えたつくりになっています」
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カウンターキッチンは横幅が274cmあり、大人4人が余裕を持って座れる長さ。前の家では料理やお菓子作りをするための作業スペースが狭く苦労したため、新居では十分な広さを確保したいと考えました。

ダイニングテーブルとして使う際、作る人と食べる人が同じ目線で話せるように段差のない一枚の天板にしたのもこだわり。一人のときには優秀な作業台として、人を呼んだときにはフラットなコミュニケーションが生まれる場として、仕事と趣味がシームレスに繋がるキッチンが叶いました。
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「換気扇や、コンロ、水栓などは、デザイナーさんと一緒にショールームに行ったり、自分で探して注文してもらったものも多いです。お金をかけるところとかけないところのメリハリを付けていて、メインになるようなパーツは妥協せずに“いいもの”を選びました」
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収納は基本的には「隠す派」。食器類はキッチン下の引き出しにすべて収納し、それ以外の調理器具や製菓材料、撮影用のプロップなどは窓下に並べた黒いスチールラックに、箱に入れて収納しています。
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「スタイリングの仕事では食器をリースをすることもあるのですが、自宅での撮影も多いのでつい気に入るものに出会うとどんどん買ってしまって。会社員時代に趣味で集めていたものだけでも百枚以上の器と数百本のカトラリーがあります。独立後は以前よりスタイリングのお仕事の割合が増えたのもあり、今後さらに物が増えていくと思うので、オープンラックで圧迫感は軽減しつつ、箱に入れるなどして見た目の統一感を持たせています」

自分好みを貫いたからこそ価値がある。たった一人が気に入ってくれればいい

完成後、一番興奮したのが照明だそうです。デザイナーさんにお任せした部分が多かったのですが、思い描くおうちの使い方にふさわしい仕上がりになっていました。
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「照明のレールを既存のサイズではなく部屋のサイズに合わせてカットしたり、電球の色味や明るさをシーンによって調光できるように配慮してくれていて。昼間は白い光で仕事をして、夜になったらバーのような雰囲気にすることもできるなぁなんて、想像してしまいました。このキッチンを、人が集い、いろんなものが生まれる場にしていきたいですね」

仕事とプライベートの拠点が重なる人が増えてきたとはいえ、暮らしのほとんどをここまでキッチンに詰め込んだおうちづくりはレアケース。完成が近づくにつれて、尖りすぎて再販や賃貸ができないのではと不安になったこともあったといいます。
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「でも結局、買うのはひとりじゃないですか。だからたくさんの人ではなく、“n=1”に響けばいいと思うようになりました。自分の好きを貫いたら、きっとそれに共感してくれる人が現れるはず。レンタルスタジオだったらむしろこれくらいわかりやすい方がいいかもしれないですしね」

誰もが欲しがるおうちではなく、自分のためのおうちを作るのがリノベーションの醍醐味。迷ったときには原点に戻り、自分のやりたいことを実現するために、好きを貫いてみても良いのではないでしょうか。

新しいキャリアを切り開くAiさんらしい、突き抜けたリノベーションを参考にしてみてください。

【Ai Horikawaさんプロフィール】
フリーランスのフードデザイナー。元Tastemade Japanのクリエイティブディレクター。学生時代は美大でグラフィックデザインを専攻する傍ら、お菓子作りとスタイリングをテーマにした写真をSNSに投稿し話題に。現在、Twitterは5.6万人、インスタグラムは4.2万人のフォロワーを持つ。
Twitter:https://twitter.com/aimogmog/
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