「誰かが用意した最大公約数的な物件ではなく、自分たちが関わって完成させていく空間に住みたかったんです」

デザインビジネスマガジン『designing』編集長の小山さんは、大学で建築の意匠設計を学び、新卒で建築設計事務所に入社しました。学生時代にリフォームのテレビ番組を見て、「建築家がつくる家」に興味を持ったのがデザインや建築の道に進んだきっかけのひとつです。

結婚のタイミングで、夫婦二人の職場の場所などを考え、千葉から都内への引っ越しを検討。その際、おうち選択の最適解に選んだのが「中古マンションのリノベーション」でした。
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都内で一軒家を持つのは現実的ではないし、自分好みにカスタマイズできる余地が少ない新築マンションには興味を持てなかった小山さん。建築を学び、作り手として働いていたからこそ、おうちを持つなら、自分のこだわりをすべて詰め込みたいと考えました。

小山さんのこだわりは、リノベーションの醍醐味とも言える間取りやレイアウト、部屋のテイストよりも、“細部”に集中していたのが特徴。例えば、壁の角の処理方法、アーチ型の造形、モルタルのキッチンなど。

「北欧風の空間にしたい」などの大枠に沿って細部を決めていくのではなく、やりたいディテールをすべて積み上げた結果として空間が出来上がる。そんなおうちの作り方をしています。

元建築家である小山さんならではの、プロの視点も交えたお話から、自分たちらしい空間づくり、キッチンづくりのヒントを見つけていきましょう。

賃貸よりも予算にはまった「買う×マンションリノベ」の選択。一生住まなくても家は買っていい

5年前、20代で中古のマンションを購入したものの、一生住むつもりではなかったという小山さん。

「純粋に、都内の家賃が高すぎて予算がはまらなかったのが、購入を検討したきっかけです。いつか買う予定ではあったので、今選択するのもありなんじゃないかと」

調べてみると、広さや間取り、築年数、駅からの距離などの諸条件が同じ場合、賃貸よりも住宅ローンを組んで購入する方が、月々の支払いが安く済むことがわかりました。

「売却も見越した条件の範囲で選べば、一生住むわけでなくても購入を選択肢に入れていいと思います。中古マンションを買ってリノベーションすれば新築よりもさらに安くすみますし」

小山さんの場合、設計のお仕事をしていたこともあり、新築のマンションのように“仕上がった状態”の部屋に住むことに魅力を感じられませんでした。

「誰かがつくった、みんなを想定した最大公約数的な物件よりも、そこに実際に住む本人たちが関与して空間をつくっていける方法が良かったので、リノベーションすることに決めました」

ところが、いざ物件を探し始めると、中古物件ならではの難しさにぶち当たります。予約販売が多い新築マンションと違い、中古物件は一期一会。迷っている一日の間にも、誰かが契約してしまえば、またゼロからのスタートです。リノベーションできそうな物件は、購入のライバルが個人だけでなく再販業者(中古物件を購入し、リフォーム、リノベーションをした上で再販する不動産会社)まで含まれるので、よりスピーディーな決断が求められました。
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「二度ほど業者さんに先を越されてしまい、物件選びは結局4ヶ月かかりました。候補のエリアを広めに設定していたことと、物件の広さも絞り込めていなかったのがその要因だと思います。もう少し条件を狭く設定して探す方が良かったと反省しました」

全体のコンセプトは決めないままで。自分好みの“ディテール”を詰め込んだ空間づくり

思い返せば、最初から最後まで「自分がやりたい要素をやりたいだけやる」を貫き通したリノベーションだったと言います。

「僕の場合、やりたい要素が『北欧風』といった大枠のコンセプトより、納まりや設備機器などのパーツ、造作などのディテールに偏っていました。キッチンはこういうシンクがいい、壁は塗装仕上げで幅木をなしにしたい、エアコンは隠したいなど。それらを一つでも多く盛り込みたいと考えていました」
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こだわりを溜めていた場所はPinterest。「Architecture_〇〇」のボードには、設計事務所時代から集め続けていた小山さん好みのディテールが集積していました。パートナーとはiCloud Photostreamでお互いが実現したいイメージに近い写真を共有し、ふたりのイメージボードが完成。

「僕好みのディテールが集まっているということは、それだけで一定の偏りがあるはずなので、全体のコンセプトを明確に定義しなくても進められました」

おうちの中で気に入っているポイントも、部屋単位ではなく、あくまで“部分”が思い浮かびます。
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トイレと洗面所のアーチ状で枠のないドアや、リノベーション会社にやんわりと反対されたモルタルのキッチン、ひとつひとつ自分で手配したコンロや食洗機。あとからDIYではめた書斎のIKEAの棚の収まり具合なども、お気に入りの箇所の一つです。

なぜこだわりたいのか、実現できるとどんなメリットがあるのか、時にパートナーと意見を戦わせながら、ひとつひとつのディテールを粘り強く積み上げていきました。
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「リビングに関していえば、青木淳さんや妹島和世さんが設計するような、真っ白でフラットな空間が好きで、エアコンをどうしても壁に埋め込みたかったんです。譲れないポイントだったのですが、パートナーにはなぜそこに10万円以上かけるのかわからない、と言われてしまって。粘り強く説得して、最後の最後は根気勝ちしました」

検討事項が多いため、家族間で意見がぶつかることも多いリノベーション。小山さんは自分のこだわりを実現するだけでなく、パートナーの意見も取り入れてバランスを取っていたといいます。照明や家具については、相手の好みを反映し、お互いのこだわりをうまく融合させました。

「僕の方がやりたいことが多かったので、譲ってもらった場面は多かったですね。ただ勝手に進めることはせず、意見をもらったら再検討するなど折り合いを付けながら進めていきました。特にキッチンは相手の方が使う頻度が高いのと、決めるパーツが多い空間なので、一番ふたりで話し合った部分かもしれません」

予算とこだわりを両立させた「施主支給」の造作キッチン

おうちの中でもっともお金がかかったという造作キッチンは、こだわりのモルタル仕上げ。リノベーション会社からはひび割れの可能性なども指摘されましたが、理解した上で想いを貫きました。
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「キッチンって、家の中で一番目にする時間が長い場所ですよね。リビングの一角にあるので、お風呂や洗面所と比べると存在感がある。キッチンを妥協するのは得策ではないと思いました」

計画当初にやりたいことをいったんすべて詰め込んだ見積を取ってみて、そこから削減箇所を検討していったそうですが、優先度を下げられない項目が一番多かったのがキッチンでした。

「最初からキッチンに一番予算をかけようと思っていたわけではなくて、必要なパーツが多いエリアなんですよ。キッチンという箱の中に、コンロにシンク、レンジフード、食洗機、食器棚、うちの場合はオーブンレンジがあって。そのひとつひとつにこだわったので、費用が集中してしまいました」
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最初はシステムキッチンも視野に入れていましたが、システムキッチンは金額の差がダイレクトに機能や見た目に表れます。ショールームに見に行くと、金額が高いものが当然質も高くて惹かれてしまうものの、予算にはまらない。かといってひとつグレードを下げると、質がわかりやすく落ちてしまうのが悩みどころでした。

「システムキッチンを一通り調べましたが、結局は造作で好きなパーツをはめ込んでいくことにしました。好きなことをやれて、かつ一番安く済みそうだったので」
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小山さんが造作キッチンを完成させるために選択したのは「施主支給」という方法です。施主支給は施工会社に任せることの多い設備や建材の発注を自分で行うこと。安く入手できたり、施工会社の取り扱い範囲を超えて選べたりするメリットがある一方、探す手間がかかるうえ、正しい規格のものを見つけてきて施工会社に指示をするといった素人には難しい面もあります。
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「キッチンの設備はひとつひとつこだわって選びました。コンロはつまみの存在感がなく、魚焼きグリルがフラットに収まるデザインを探したり、長めの角型シンクがなかなか見当たらず、聞いたことがないメーカーさんのウェブサイトから直接問い合わせて入手したり。手間と時間はかなりかけましたね」

専門知識は無くて当たり前。やりたいイメージに向かって、聞けることは全て聞く

施主支給はリノベーション会社によっては断られるケースもあるので、視野に入れているのなら、はじめに聞いておくとのちのち揉めずに済みます。小山さんの担当会社は柔軟に対応してくれたため、キッチンまわりの設備はほぼ自分たちで各メーカーに発注し、施工現場に届くように手配していきました。
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「規格が合っているかを確認しながら各アイテムを探し、選び、手配するのは、建築業界にいた僕でも苦労しました。でも、暮らし始めてみて、オーブンレンジなどキッチン設備は妥協せずに買ってよかったと実感しています」

小山さんに施主支給をやり切る秘訣を聞くと、「完成形のイメージを持っておくこと」とのこと。リノベーションの場合、新築と違って、やりながらでないと確定できない部分もあるので、図面通りにいかない、または部分的に図面がないまま進むこともあります。自分たちなりの理想像を描けていないと、できあがりを見てもなにも判断できません。

「施主支給に限らず、リノベーション中は、少しでも気になったことは聞いたほうがいいです。プロは、何がわからないかがわからないので。共通言語がないのも当たり前です。住み始めてからでないと気づけないこともありますが、だからこそ、完成前に潰せる不安は潰しておく。あとで大変なことにならないように、たまには現場に足を運んで、リノベーション会社と密にコミュニケーションを取るのがおすすめです」
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たくさんの決断を求められるリノベーションにおいて、購入と賃貸、システムキッチンと施主支給など、ひとつひとつの課題を客観的にみてクリアしてきた小山さん。

思い込みにとらわれず、“自分たちにとっての”最適解を集めれば、理想のおうちを実現できるかもしれません。
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【小山和之さんプロフィール】
デザインビジネスマガジン“designing”編集長。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサルティングファームを経て独立。2017年にdesigningを創刊。inquire所属。

Twitter:https://twitter.com/kkzyk/
note:https://note.com/kkoyama/
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